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春は、獲れたての筍を。
夏には、山や海でバーベキューに。
秋には、きのこやサンマを縁側で。
冬は、干物を炙って熱燗と。

食卓を飛び出して、季節の旬の食材を美味しくいただくのに重宝される七輪。
炭を使い、赤外線の輻射熱効果で食材のうまみを損なわず、表面はパリッと、中はしっとりと焼きあげるのが特徴です。
古くは江戸時代から、家庭の調理器具として、七輪は長く家庭で使われてきました。

その七輪の産地である愛知県碧南市に、唯一昔と変わらない製法で七輪を作り続けている工房「杉松製陶」があります。
大正5年の創業から、一貫して高品質の七輪づくりを続け、現在は3代目の杉浦和徳さんと奥さまのさだえさん、娘さんの3人で工房を切り盛りしています。
機械のよる合理化や大量生産が主流となって行く中で、あえて「手づくりの品」にこだわりを持ち、全国でこの工房でしか作ることのできない「黒七輪」を作っています。
工房の外には、原料となる土や釜炊きの燃料となる木材が積まれ、そして天日干しされている七輪が至るところにありました。

碧南市と言えば、日本三大瓦の一つ「三州瓦」の産地として有名な地域。
「三河土」と呼ばれる、きめ細やかな良質な粘土が採取でき、碧南市を含む西三河と呼ばれるエリアは、その粘土を使った瓦や陶器などの製品を数多く生み出し、産業を発展させていきました。
この三河土を使って杉浦さんが作る「黒七輪」は、その名の通り、見た目が真っ黒な七輪です。

使い方は、いたって簡単。
着火剤になる新聞紙を軽く丸めて底に入れて、その上に空気が通るような隙間を作りながら木端を並べ、さらに上に炭を置く。
新聞紙に火をつけると、側面の下の方にあるの風穴という空気を調整する窓から入った空気が、上へ抜けることで風が起こり、新聞紙→木端→炭へと火が上へと燃え移っていきます。
炭に火が着けば、シンプルに網を乗せて食材を焼いても良し、鍋やフライパンを乗せて料理しても良し。
七輪は、昔は家庭のコンロとして使われていたくらい、実はいろいろ使える万能コンロなんです。

この黒七輪の他にない大きな特徴は、二重構造であるところ。
外釜の層には水や衝撃に強い三河土を使い、内釜には軽くて断熱性が高く、また熱効率の良い能登の珪藻土を使っています。
珪藻土だけで作られる七輪は、軽くて持ち運びがしやすいのに比べ、気密性の高い粘土を使って作られる黒七輪はとにかく重い。
けれど、珪藻土の水に弱く、壊れやすいところをカバーし、丈夫で水や塩害に強くて、とても長持ちしたため、炭の産地である紀州や東北の一般家庭や、海の近い町で多く使われていたそうです。
中には、船に乗せて漁に出る漁師さんもいたとか・・・(美味しい想像が膨らみます)。

金物は一切使わず、土と水だけを使って作られている黒七輪ですが、いったいどのようにして作られているのか。
工房にお邪魔し、この道40年以上の七輪職人 杉浦さんの手仕事を追いました。

受け継がれた職人技が光る「戸口切り」

築100年以上の歴史を持つ杉松製陶の工房は、昭和34年に起きた伊勢湾台風にも耐えた歴史と味のある建物です。
木造でできた低い屋根の工房の中には、プーリーと呼ばれる大小さまざまな大きさの滑車といろいろな掛け方をされたベルトが、壁や天井、柱や梁などいたるところに作り付けらえれていて、様々な製造機をベルトドライブという機械要素で動かしています。
全てが動き出すと、まるで建物全体が時計仕掛けのような機械のようなダイナミックさがあり、一つ一つの動力が伝わる様子が目で見てわかる、とてもワクワクするような面白い空間です。

まず、建物の外に運ばれた三河土を内部へ運び、土練機を使って水と混ぜて粘土を作ります。
最初に作るのは、二重構造になっている外側の黒い「外釜」の部分。
出来上がった粘土を外釜の型枠の中に適量入れ、ろくろを回し、最初は素手で粘土を型枠に押し当てていきます。
均一な厚みで型枠の上まで粘土を押し上げ、最後に内側を特殊な大きなヘラで整えます。

この時に大切なのが、水加減。
横にある鍋から、手のひらで水を足して、粘土の硬さを調整します。
少ないとひび割れてしまい、多いと形が崩れてしまうので、その日その日の気温や湿度と相談し、一つ一つ手で粘土の具合を確かめながら作っていきます。

最後に、同じ粘土を使って作った「風窓」の内壁を貼り付け、ろくろでの作業は終了です。
外釜の型枠は石膏で作られており、粘土の水分を吸収してくれるので表面の乾燥が早く、約半日ほどで型枠から外す事ができるそうです。
そこから、更に室内で乾燥させ、まだ粘土が柔らかいうちに、風窓を開ける作業「戸口切り」を行います。
「戸口切り」は、黒七輪でしか見られない職人技です。
金物は一切使わない黒七輪ならではの、杉浦さんの手仕事が一番光る部分です。

まずは七輪の上部の淵に、ローラーで模様をつけます。
実はこれも、杉浦さんのこだわり。
なんだか、ラーメン屋さんの器のような模様で可愛らしいです。

次に、金物でできた型枠の形に穴を開けます。
小さな鎌のようなナイフを使い、成型の最後に貼り付けた内壁までくり抜かないよう慎重に作業を行っていきます。
くり抜いた部分の半分は引き戸になるため、きちんとスライドするように、敷居を45度の角度に切り込み、形を整えていきます。

そして、内壁にも半分穴を開け、最後に手かけとなる半月模様を入れたら、風窓の完成です。
「戸口切り」は黒七輪づくりの工程の中で一番手間と時間がかかる作業であり、杉松さんの手によって一つ一つ丁寧に作られています。

杉浦さん:
「昔、面倒臭い作業だから金物にせよって言う人もおったけど、俺はやだって拒否したんだよ。手間はかかるけど、うちの製品の一番の特徴だし、ここには技術がある。他にも、持ち上げるために金物でつるの取っ手を付けてくれって言う人もおったけど、それも断った。金物を一切使わないことは、うちのこだわりだから。」

伝統のだるま窯でより美しい黒色に

形が出来上がった外釜は、天日でしっかりと乾燥させてます。
この時点では、まだ七輪は「土」色で、黒くありません。

いよいよ、黒の登場です。
その正体は、水で溶いた黒鉛の色。
黒鉛は鉛筆の原料でもあり、ダイヤモンドと同じ物質です。
これを何層にも塗ることで皮膜ができ、より表面が丈夫になることで塩や油にも強く、見た目も美しく保つことができます。

黒煙が乾燥したら、碁石にも使われる那智石でピカピカに磨き上げる「石磨き」を施します。
石で磨くことで、艶が増し、さらに強度も上がるそうです。

さて、内釜には、珪藻土の産地として有名な石川県能登の珪藻土を使います。
実は、能登は白七輪の産地としても有名な地域で、かまどやレンガなどを作るのに適した珪藻土は取れる場所なのだとか。
内釜は、水と練った珪藻土と型枠に入れ、プレスして作られます。
外釜と違ってろくろを使わないので、こちらの方が手間はかかりませんが、珪藻土の品質に左右されることもあり、水の配合などの調整が必要です。

また、乾燥時に粘土ほどの伸び縮みがないので、失敗も少ないそうです。
こちらも天日で、完全に乾燥させます。

さぁ、いよいよ焼成の作業です。
使う窯は、瓦を焼くのに使われていた伝統的な「だるま窯」。
伝統的ないぶし瓦「藤岡瓦」を作るのにも使われていた窯です。)
杉松製陶のだるま窯は約80年間、修復しながら使い続けてられています。
特徴的に感じたのは、煙突の部分。
焼き物の産地だからか、土管の煙突が使われていましたが、作っていたところが廃業してしまい、次壊れたら直せるかわからないとおっしゃっていました。

杉浦さん:「この窯の中に、珪藻土の内窯だったら600個、粘土の外窯だったら400個並べて、木と重油を併用して約700度の熱で7~8時間かけて焼きあげる。燃料に使っている、薪や近所からもらえる木材の破片なんかを使ってるから、今はあんまりコストがかかってないね。」

だるま窯で焼きしめられた外釜は、火入れの最後に松脂を入れ密閉し、表面の黒により艶を出します。
この艶がきちんと出るようになるには、罐焚きにも難しい技術が必要なんだそうです。

【後編】へ続きます。

 

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