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渡良瀬川が流れ、山に接した栃木県足利市。

ここは冬の季節は群馬県に位置する赤城山からの赤城おろしが厳しく、夏は日本の中でも最も暑い地方とされる埼玉県熊谷市や群馬県館林市にほど近い場所にあります。

そんな暑さも寒さも厳しい場所で、山の斜面に作られたぶどう畑とワイナリーを訪ねました。

みなさんはワインと聞くとどこの地域を思い浮かべますか?

百貨店のワイン売り場へ行ってみると、多くはヨーロッパのものです。
中にはアメリカのカリフォルニアや南米チリのものも有名です。
国産のワインも少しづつ出てきました。
しかしほとんどが長野県の岡谷市や東御市、北海道のワインです。
なぜでしょう?

ワイン用のブドウを栽培するのに適している場所としていくつか条件があると教えてくれたのはこちらのワイナリーを案内してくれた越知翔子さんです。

越知さん
ワイン用のブドウは日当たりがよく、水はけのよい場所が適しているとされています。
ここを開墾したのは1950年代当時の特殊学級の中学生とその担任教師だったの川田昇です。
川田はのちにココ・ファーム・ワイナリーを設立しました。
今は市内に合計5カ所のブドウ畑を管理しています。

現在、ココ・ファーム・ワイナリーのブドウ畑で作業しているのは、畑から程近くにある障害者施設、こころみ学園の利用者さんだそうです。
この障害者施設には、約150名ほどの大人が共同生活をしているとのことでした。 

越知さん
ここ最近のこころみ学園利用者の平均年齢は50歳を超えてきました。
最年長は95歳。
こころみ学園ができたのは昭和44年ですので、それを考えれば平均年齢が50歳を超えてくるのは驚くことではありません。

このこころみ学園の創設は、創設者である園長先生(川田氏)が中学校の特殊学級の教師として働いていた時にさかのぼります。
クラスにいる知的障害のある生徒たちは、体力がなく落ち着いて話の聞けない子が多かったのです。その子たちがどうしたら卒業後も生活していけるか考えたところから始まります。

体力がないのなら、体力をつけたらいい。
話が聞けないのなら、その子たちが熱中できることをずっとやっていられる環境を作ってあげればいい。
そう考えた園長先生が始めたのが、学校から少し離れたところで行う畑作業でした。
平らで広大な敷地を購入することはできませんでしたが、日当たりのよい山を購入することができました。そしてそこには今ぶどう畑が広がっています。

 

越知さん
この土地は38度も傾斜のある斜面です。
しかし日当たりと水はけがとてもよく、何かを育てることができるのではないかと思った園長先生はこの土地で生徒が熱中して作業をし、年に一度ご褒美になるような甘くておいしいもの、そして手間がかかり生徒が暇にならないような果樹を植えようと考えました。

こうして始まったのがブドウの栽培でした。
この急斜面でのブドウ作りは、気力と体力のない児童たちにとって、とてもよい仕事になりました。
暑い時も、寒い時も、お腹が減ったときも、眠い時も不満を口にしてもどうにもなりません。手のかかるブドウの栽培は、今まで学校の教室の中で机に向かっていることを強いられてきた生徒たちにとっては、とても楽しい時間だったに違いありません。

 障害者施設の人が作るから注目を集めるというのではなく、ここで作られる美味しいものとして注目してもらいたい。
そう思った園長先生はブドウをワインにするためにワイナリーを始めました。
今ではここ足利の気候に合うワイン用のブドウを約10種類、市内に広がる5つのぶどう畑で栽培しています。
また全国の契約農家さんのブドウも併せて、斜面の広がるブドウ畑の麓のワイナリーにて製造しています。

せっかくみんなで作り上げたぶどう畑とワイン用のブドウ。
使えるならどんなものでも使いたい。
今はブドウを絞った後の皮や種も近くの酪農家さんに渡り牛の餌にしています。
そしてその牛糞はブドウの栄養になる有機肥料としてぶどう畑に戻ってきます。

越知さん
今では循環型農業と言われたり、この場所がユニバーサル農業と言われたりしています。
でも始めたきっかけはどれも単純なものでした。
種も皮ももったいないなと思ったから他に使える場所を探しました。
みんなで楽しくやれたらそれでいい。そう思ってこころみ学園を創りました。
でもお金も必要だし、仕事がなくて暇でも困る。

こうして始めた全ての事が、おいしいワインに繋がっているのかもしれません。

堅苦しい文字ではなく、少しのアイディアと思いやりでとってもよい環境になるのだなと思いました。

越知さん
ワイン、とりわけスパークリングワインは特に時間と手間暇を要します。
瓶の中で発酵すると発生するオリは、出荷前には取り除かなくてはいけません。
瓶の中に沈んでいるオリを、瓶の口まで持ってきて、口の部分を瞬間冷凍し、固まったものを捨てる。
この作業で一番根気の必要な部分は瓶の底に沈んでいるオリを口まで持ってくることです。
少しづつ、朝と夕に45度づつ、角度を変え回しながらオリを口まで持ってくる。

言葉で表現するのは簡単ですが、とても大変なことです。
今日は寒いからいいかな。
一日くらいさぼってもわからないよ。
そう考えてしまいがちですが、この仕事にとっても向いている人たちがこのワイナリーにはいました。
そう、知的障害者の中にこうした細かい仕事を得意とする人たちがいるのです。

越知さん
私たちが少し触っただけでも彼らにはわかります。それくらい細やかな仕事をします。
この場所はみんなの得意を生かして仕事ができるのです。
障害者の人にはできないこと、苦手なこともあります。
でも得意なことはとことん得意。
それを個々で生かしていければ、それほど素晴らしいことはありません。

世の中にはワインやシャンパンは品評会で賞を与えられることが多くあります。
しかし、ココ・ファームは自分たちから品評会へ出したことは一度もないそうです。
それはみなさんがこう考えているからだそうです。

 それはワインは競うモノではなく楽しむものであるから。
自然に寄り添ってぶどうがなりたいワインになる。
それを手助けするのが人間の仕事。

ここで試飲させていただいたワインは、一つ一つがしっかりとそのブドウ本来のおいしさを引き立たせるようでした。

少し特別な日に食卓に並ぶワイン。
いつもの食卓に並ぶワイン。

どちらも、どれも、足利の急斜面で夢中になって働く人と、そのご褒美にと植えられたブドウの香りがしてきます。

 

 

 

 

 

 

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