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日本で唯一、昔と変わらない製法でオリジナルの七輪「黒七輪」を作り続けている杉松製陶。
機械のよる合理化や大量生産が主流となって行く中で、あえて「手づくりの品」にこだわりを持ち、金物は一切使わず、三河の土と能登の漆喰などの土と水だけで七輪を作っています。

現在、この工房を受け継いでいるのは、3代目 杉浦和徳さん。
土と水から作られた内釜と外釜が出来上がるまでを追った前編に引き続き、後編では完成までの杉浦さんの手仕事を追います。

二重構造を作る重要な最後の工程へ

やっと最終工程まできました。
ここで、焼きあがった外釜と内釜をつなぎ合わせます。
ここは、さだえさんと娘さんが作業されていました。
接合部分の接着剤として使われているのは、「マナゴ」と呼ばれる粘土。
材料は、珪藻土を中心に三河土を足して、水と練って作られています。

外釜の淵の内側にマナゴを満遍なく塗り、風窓の位置に注意して、中窯を上から真っ直ぐにセットします。
がっちりと接合できたら、接合部をマナゴを使って、キレイに仕上げます。

その後数日間、マナゴをしっかり乾燥させ、内釜と外釜を接合させます。
最後の仕上げに、内側に京都の山科で取れる砥乃粉を塗り、外側には黒の艶が長持ちするように保護剤を塗っていきます。

内も外も塗料が乾燥したら、やっとやっと黒七輪の完成です!

これだけの工程を通し、70個程度を一度にまとめて作っている黒七輪ですが、一回作り上げるのに約2ヶ月の期間がかかっています。
スケジュールを調整して、コンスタントに作り続けても、年間に2400個ほどしか作れません。

成型、塗装、研磨、乾燥、焼成などの工程を幾度なくと繰り返し、その全てが手作業が行われいることと、天気や季節にも大きく左右される中で、性能や品質を高く均一に保つことは、とても大変なことだと感じました。
それと同時に、「何かあるかわからないから、年中無休で作っているよ」と笑顔でおっしゃる松浦さんご一家の黒七輪を作る仕事は、家族の生活の一部に当たり前の日常として、溶け込んでいる気がしました。

手間暇かけてつくる黒七輪と日本の暮らし

制作の過程を一通りご説明いただいだところで、改めて、3代目の杉浦和徳さんと奥さまのさだえさんに、これまでのことや苦労された点、感じていることなどをいろいろと伺いました。

LinkLink(以下—):
今は娘さんと3人で作業をされていますが、それまではご夫婦お二人で作ってみえたんですか?

杉浦和徳さん(以下和徳さん):
一番最初にこの工房に入った頃は、職人さんが4、5人はおったよ。

さだえさん:
昔は、だるま窯も1ヶ月に一回は炊いていたもんね。

―:
稼働率が今の倍はあったんですね。
昔は必需品だった時期もあって需要が高かったから、作る数も多かったのですね。

和徳さん:
そうそう。
でも今はもう、趣味で買う人がほとんどだから。

―:
そうですね。
一番忙しかった最盛期は、いつ頃でしたか?

和徳さん:
この仕事に就く前の、わたしはまだサラリーマンの時だけど、オイルショックの頃が一番忙しかったって聞いてるよ。
トイレットペーパーがなくなった騒ぎの頃・・・あ、生まれとらんか?

―:
そうですね、教科書で見た出来事です(笑)。

さだえさん:
昭和50年前あたりだよね。

和徳さん:
うん。

―:
なぜ、その頃が一番忙しかったのですか?

和徳さん:
そうだね・・・
ちまたで、燃料がなくなるっていう話があって。

―:
なるほど。
七輪だと炭や木があれば、使えますからね。
和徳さんは、以前サラリーマンをされていたそうですが、元々この工房を継ごうと考えていたんですか?

和徳さん:
まるっきりなかったけど、まぁ周りから突かれてね。
こんな汚れる仕事なんくしたないじゃん。
でも今思えば、苦労はたくさんあったけど、面白い仕事だよ。

―:
先代からは、どのように技術を受け継いだんですか?

和徳さん:
なんも教えてくれてないよ。
見よう見まね。

―:
それは大変でしたね。
やり始めたばかりの頃は、どんな様子だったんですか?

和徳さん:
失敗してさ、どこをどう直したらいいかって考えてって事の繰り返しだよ。

―:
先代の見本を見ながら、自分の中で試行錯誤の繰り返しだったんですね。

和徳さん:
そうそう。
だから、昔から作り方や材料なんか何も変わってないね。
ただ、材料の質は、昔と変わってきてる。

―:
それはどういう時に気づいたんですか?

和徳さん:
昔は、外釜なんか天日干ししていても、あんまし切れる(ヒビが入る)ことはなかったんだけど、今では天日干しすると絶対切れるもんね。
だから、陰干しにしたりと試行錯誤してるってわけ。

さだえさん:
外釜と中釜を組み合わせる時に使うマナゴっていう土にも、今は少しだけ三河土を入れとるね。
昔は、マナゴの土だけでも良かったんだけどね、今はマナゴだけだとあまりにも柔らかいから。

―:
新しく土を作るって、調合がすごく難しそうですね。

さだえさん:
そう、それでいろいろ作ってみたんだよね。
マナゴに他の土入れたり、いろいろ配合したりしてみたの。
で、三河土が一番良かったなって。
でも、粘土は縮むから分量とかが大変だったね。

ー:
確かにさっき、粘土で作った七輪の外側の縮み具合を見たんですけど、粘土入れるとかなり縮みそうですね。

さだえさん:
そうそう。手作業だからね。

―:
その細かいその変化に気づけるのも適応できるのも、きっと手作業だからこそですね。
でも、材料も徐々に変化してしまうと、品質を保つのが本当に大変ですね。

和徳さん:
結局、土って同じ産地でも採取する場所が少し変わると、ちょっと違うからね。
だから、質が変わっちゃうこともあるじゃん。

―:
そうですよね、そう考えると土の質の良し悪しではないですね。
自然そのものだから、同じものを使い続けていく方が難しい。

和徳さん:
このだるま窯の中に七輪の外釜を7段くらい積んで焼くけど、土が変わると上がかなり空いたりするもんね。
ってことは、使ってる粘土がそうとう縮んでるってことだ。
粘土によって、こうも違うんだよ(笑)。

―:
あぁ、そう考えると急に難しく思えてきました!

さだえさん:
そう、だから土って難しいもんね。

―:
土が変わったことは、仕入れている先から教えてもらえるんですか?

和徳さん:
ううん、そんなの何にもないよ(笑)。

―:
何にもない・・・。
じゃあ、運ばれた土を見て、触って、使って、初めてわかるんですね。

さだえさん:
やってみて「あ、すっごい縮んだ」って知ってから、土が変わったってわかったりね。
珪藻土はそういうことがないから、内釜と合わせるのが難しくなるのよ。

―:
あ、そうなんですね!
黒七輪の材料は、三河土や珪藻土などの土と水だけで材料がシンプルだからこそ、考えられる原因やその対策もシンプルだけど、そこに職人の経験や勘が必要になってくるんですね。

和徳さん:
そうそう。

―:
この辺りには、今でも同業者の方は多くいらっしゃるのですか?

和徳さん:
わたしが組合(三河陶器協同組合)に入る頃は、2、3軒あったのかな。
昔は50軒くらいあったそうだけど。

―:
50件あった頃は、産業としては、七輪以外に何が盛んだったんですか?

和徳さん:
七輪だけじゃなくて、火鉢だとかね。
でも、家庭にプロパンガスが入るようになってから、一気に減っていったね。
燃料革命が起きたって当時は騒いでたよ。
で、どういうわけか、うちが最後一軒残っちゃったってわけだな(笑)。

―:
ガスが普及するまでは、七輪が家庭のコンロだったんですね。

和徳さん:
そうそう、必需品だったんだよ。

さだえさん:
それと、くどね。

―:
くど?

和徳さん:
竃のこと。

―:
あぁ、「おくどさん」と言いますね!

さだえさん:
昔の家には、作り付けの竃がだいたいあったね。
わたしらが小さい頃は、よく羽釜でご飯を炊かされたもんね(笑)。

和徳さん:
今はもう、どこも使ってないね。
家庭用のコンロとしては。

さだえさん:
昔は、うちでもよくやってたんだけどね、七輪に網のせて、魚焼いて食べたりさ。
でもね、今はすぐ火災報知器がピーって鳴るからできないね。
換気扇を回してても、鳴っちゃうから。

和徳さん:
息子の家族たちがバーベキューを年に数回、家の庭や駐車場でやる時は、必ず使うね。
勝手知っとるで、自分たちでさっさっと出して準備して、お肉焼いたり、魚焼いたり、使っとるね。

―:
季節的に初夏や秋なんかは、庭やデッキに七輪を出して、バーベキューしたり魚を焼いたりと一番出番が多そうですね。

和徳さん:
そうだね。
だから、作る側からすると冬が一番需要が少ない時期だから、春に向けて在庫を一生懸命作っとる。
バーベキューが始まる頃、うなぎが始まる頃、そして、さんまが始まる頃に向けて。

―:
旬の時期に最高ですね(笑)!

和徳さん:
使われる時は決まっとるから、だいたい毎年出る時期も決まっとる。
年中ずっと作ってますけど、毎年1月~3月のあたりは普段より暇だから、のんびりやれとる(笑)。

―:
在庫はなくなることはないんですか?

和徳さん:
一応切れることはないけど、秋ぐらいに「もう少し1月2月にがんばっとけばよかったなぁ」って思うことはある(笑)。

―:
なるほど。
受注とは関係なく、月に作れる数が決まっているから、その時期の頑張り次第になるんですね(笑)。

和徳さん:
そうそう。
夏は暑いって言って文句言って、冬は寒いって言って文句言って作ってる(笑)。

―:
あはは(笑)。
そういった気候や季節、素材など自然との繋がりがある黒七輪を作る仕事を通して、環境や伝統といったところで感じることはありますか?

和徳さん:
環境ってことに関しては、興味がないような人が増えてきた気がするね。
環境に良くないことを平気でやるような、無頓着の人がね。

―:
そう感じるのは、どういったことからですか?

和徳さん:
町の中はゴミの分別が厳しいんだけど、そういうものを理解していない人が多いね。
そういう人に限って、環境や文化とかに関心がなかったりするんだ。

―:
中には、伝統的な文化や産業のことをよく知らないで、いろいろと言ってくる人もいますね、きっと。

和徳さん:
この辺は三州瓦が盛んで、昔から瓦屋さんが多かったから、「三河の雀は真っ黒だ」ってよく言われてたくらいだしね。
今ではあり得ないだろうけど。

―:
黒い煙が、いたることろから見えてた時代があったってことですね。

和徳さん:
それが当たり前の風景だったからね、当時はそのことを、誰も何とも言わなかったもんね。
でも、今はそんな時代じゃないよね。

―:
そうですね、昔は木や薪を使って火を焚べるのが当たり前だったところも、後に重油やガスに変わったりして、更に産業そのものが衰退してしまったり。
時代の背景にあったものを知らないまま、ここに住んでいる人も多いかもしれませんね。
そういったことを知らない世代の子どもたちに、残していきたいと感じることはありますか?

和徳さん:
小学校の社会見学で、よく工房に来てもらっているんだけど、触って、見て、何かを感じ取ってくれていたらそれでいいかな。
たくさんお礼状も貰うしね(笑)。

―:
次の世代に残していきたい思いは、きっとありますよね。

和徳さん:
京都や金沢なんかだと、伝統産業を保護して、職人を育ててくれるような取り組みもあるだろうけど、この辺りでは難しいからね。
うちでも、誰か跡を継いでくれる人を探してくれないかってね、冗談半分で声をかけたりしてるよ。

―:
和徳さんがこの仕事をしていて、良かったと感じる時はどんな時ですか?

和徳さん:
いろいろと苦労や試行錯誤をしてできた黒七輪が、実際に使ってくれるユーザーの手元に渡って、使ってくれた感想の手紙やメールをもらえると本当に嬉しいよね。

―:
直接こちらに送られてくるんですか?

和徳さん:
うん、電話がかかってきたりもするね。
この二、三日前にも、外国へお土産で持って帰るって言う人もいたしね。

―:
それは、嬉しいですね!

和徳さん:
あとは今、うちから卸している業者のお客さんがさ、うまく儲けてくれればそれが一番いいかな(笑)。
その代わり、値段を崩してもらっちゃ困るけどね。

―:
これだけの手間暇がかかってますからね。

和徳さん:
それを分かってくれてるところだけしか、取引してないね。
うちにお邪魔したいって来てくれて、取引したいって言ってくれたところだけだね。
インターネットの時代だから、ネットで販売したいって人も多いんだけど、今はそういう新規のお客さんはほとんど受け付けてない。
なんて、商売っ気ないこと言ってる余裕があるわけじゃないけどさ(笑)。

―:
それって、大切に使い続けてくれる人がいるから、需要もまだまだあるってことですよね。
これからも、ぜひ作り続けてもらいたいです。
今日は、本当にありがとうございました!

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