interview

木の良さを肌で感じるこだわりの空間づくり

新井ゆかり
新井ゆかり
馬場 清さま
馬場 清さま
認定NPO法人芸術と創造協会 東京おもちゃ美術館  事務局長・副館長

2007年に閉校になった新宿区立四谷第四小学校校舎へ移転し
2010年から林野庁木育事業を受託。日本各地だけでなく世界にもおまちゃの文化を伝える活動をしている。

地下鉄の四谷三丁目の駅から少し歩くと、お母さんと子供が何組も歩いていました。
こんな都会のど真ん中、ほとんどがサラリーマンのこの地域、しかも平日です。
子供が遊ぶようなところも、お母さんが買い物をするようなところもないようなところですが、何組もの親子連れとすれ違いました。

少し進むと小学校のような建物が。
しかし、中は小学生ではないようです。
地域のお年寄りや親子連れがいるのが見えました。

 

そんな建物の中で出迎えてくれたのは、NPO法人芸術と遊び創造協会 東京おもちゃ美術館の副館長さんの馬場清さんです。

ここ東京おもちゃ美術館は世界中のおもちゃの展示と、そのおもちゃで遊べる空間を用意しています。
私がお伺いした日は強い雨の降る日でしたが、たくさんの母子が訪れていました。

最初は本当に小さなスペースでした。
マンションの一室におもちゃを集めて遊べるようにしていました。
色々あって、この廃校になった小学校に移ってきたんです。
見ていただいた通り、世界のおもちゃを集めてみたり、日本の古くから伝わるおもちゃで遊べるスペースを作ったり。特に木だけで作るというイメージはなかったです。
おもちゃならなんでも集めてみました。という感じでこの四谷でスタートしました。

展示室を見せていただくと、ちょうど世界のおもちゃ展が開催されていました。
アフリカの人形やドイツの伝統的な木のおもちゃが並んでいました。
なかなか世界のおもちゃを見る機会がないので、どれも新鮮でした。

最近はアジアの観光客も増えています。
するとアジアのおもちゃを見て、みなさん懐かしいとおっしゃいます。
小さい頃はこれでよく遊んだよ!なんて言ってくれて。
私たちよりも詳しいので、反対に遊び方を教えてもらったりしています。

この美術館の中でも一番の人気を持ったのがおもちゃの森と言うスペースです。
こちらには国産無垢材を使いました。
床はもちろんですが、格子を作って遊べるところがあったり。
ここで遊ぶものも木のものを中心に考えて置きました。

壁際にはおもちゃを納める棚や箱がたくさん並んでおり、その中にいろいろな種類の木のおもちゃが入っていました。0歳の子供も遊べるスペースには、少し大きい3歳の子供も楽しめる工夫が散りばめられていました。

このスペースはおもしろいですよ。
木の玉が入っているプールは0歳の子供でも中に入って遊べます。
一つ一つの木の玉の形が違うので、それもおもしろいところの一つです。
中に入ってみると、地面より柔らかい感じがしますよ。
そしてこのプールの周りがまた面白い。
溝があるので、この玉を転がすことができるんです。
そしてある一か所にある速度で到着すると下のプールに落ちるようになっている。
こっちは少し大きくなって3歳くらいのお子さんが楽しめます。
これなら0歳でも3歳でも楽しめるんです。

実際にやらせてもらうと、おもしろい!
玉の形が一つ一つ違うので、転がり方も様々です。
そしてころんと落ちる。落ちた玉はまたプールの中の玉の一つとして他の子供の遊び道具となりました。

こちらは部材に寄って違う木を使っています。
だから重さが違うんです。積み木として使うとバランスのとり方が難しくて、それだから面白い!

そんな素敵なスペース。
子供に人気だということも、もうなずけます。

子供もたくさん来てくれていたんですが、スーツの大人が来るようになったんです。
おかしいなと思っていたら、林野庁の方々でした。
そして今木使い運動をしており、その中のプログラムへエントリーしないかというお話をいただきました。
こちらは本当に小さな美術館のつもりで始めたので、そんなに大きなことはできないと思い何度かお断りしたのですが、ぜひということでしたので、お受けしました。
それが“木育”というプログラムでした。

 

それからは本当にどんどん話が進みました。
第2号は沖縄のやんばるおもちゃ美術館でした。
こちらは村が運営している美術館です。しかしおもちゃをそろえたり、そこで働く人を教育したりして関わらせていただきました。
また企業さんが持っているスペースでのおもちゃ広場の提案や教育もさせていただいています。

パンフレットを見せていただくと、いろいろなところにありました。
マンションの共有広場やショッピングモールの一角など、気軽に立ち寄れる場所にもあるようでした。

私たちは建物やおもちゃ、空間をつくるだけではダメだと思っています。
人を育てることが大切だと考えています。
遊ぶスペースには必ずボランティアの人にいてもらうようにしています。
ただおもちゃに触れるだけでなく、遊び方の提案、そのモノがどんなものか、どこの誰が作っているのか、どこの木でできているのかなどなどお話しながら遊んでもらっています。
また木のおもちゃの取り扱い、最後は片付けまで一緒にできればより良くなると思います。

衝撃を与えるとすぐに凹んでしまう杉の床板も、大きな傷なくきれいな色のままです。
木のおもちゃも新しい時から見ると色の変化はありますが、壊れているものは少ないということでした。

私たちが理念として掲げているものがあります。
まずは多世代交流。色々な年代の人たちに遊びに来てもらいたいと思っています。
おじいちゃんが子供たちにけん玉を教えてくれたり。
めんこも置いておくだけだと遊び方がわかりませんが、教えてくれる人がいると一気に虜になります。

そして市民の手を借りる。
市民の手と言うのは直接的なものと間接的なものがありますが、今はボランティアとして330人ほどにご登録いただいています。みなさん私たちが主催した講座に通っていただき、おもちゃのことを勉強した方々です。
私たちはどんなに素敵な空間があっても素敵だと感じる感覚は2割だと思っています。
残りの8割は人。だから人の育成には力をいれています。
ここに来て、あの人に説明して遊んでもらってよかった。楽しかったと思ってもらえるように頑張っています。

そしてもう一つはお金です。
寄付をしていただいて一口館長のコーナーに木に名前を彫ったものを飾っています。
建物をどうにかするのにもとてもお金がかかりました。
お金が足りなくなってきて、どうしようかと思った時に思いついたんです。
ここに名前のある方々に本当に助けられました。

そして最後は家族の交流です。
大きいモールのプレイスペースのように子供は遊んでいるけれど、大人は外で見ているだけではダメだと思いました。そして親子で遊べるスペースにしたいと。
手作りのおもちゃも、子供が作るだけでなく、一緒に作る。そういった施設でありたいと思います。

時代の変化と流れでたくさんの人に来ていただけるようになりました。
最初はプラスチックのおもちゃでいいやと思っていたんです。
でもこの場所は都心で窓から木が見えない。
ならば木を使った広場を造ろうと思っておもちゃの森を作りました。
すると木のイメージが強くなったんです。

木育ひろばと呼ばれる木のスペースもすごく混み合っています。
0歳から2歳までの親子しか入れないスペースですが、五感を駆使して成長するこの年代のわが子をいい空間で遊ばせてあげたい、安心、安全なものに触れさせたいという親心が私たちの木をふんだんに使った空間と考えに合致したのだと思います。

都会のど真ん中、窓から緑の見えない空間には、電車を乗り継ぎ毎日たくさんの親子が遊びに来ます。
こうして子供が安心して遊べる空間がいろいろなところにでき、ゲーム機を置いて遊びに夢中になる子供のいる未来はきっと素敵だろうなと思いました。

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