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長野県長和町に、業界の異端児と呼ばれる材木屋さんがあります。
彼らが主に扱っている木材は、長野県産の信州唐松。

「どうして唐松を扱っているんですか?」
「え、だって周辺に唐松しかないから 笑」

実は、長野県の山の木の約60%は、唐松が占めています。
その多くは、集成材や合板などに利用され、無垢材をそのまま扱うところはごくわずか。
その理由は、とにかく「暴れる」からだと聞きます。
成長過程でねじれながら伸びて行くので、乾燥していく最中にも、どんどんねじれていってしまい、とても扱いにくい木なのだとか。
だから、あまり建物の構造材などでは使われていません。

そんな信州唐松を使った家づくりに、無垢材で挑戦をしている小林木材の専務 小林保経さんにお話を伺いました!
木もこと、山のこと、環境のことも考え、試行錯誤してきた道のりは、とても大変なものだったそうです。


1 唐松の無垢材で、材木を作ることに意味がある

唐松の一番の特徴は、「ねじれ」があることです。丸太の状態だと見た目からはわかりませんは、成長過程でねじれながら上へ上へと伸びていきます。成長した唐松を山から切り出し、材木に加工する課程で長い間乾燥させるのですが、乾燥中にもどんどんねじれて暴れます。暴れるとは、まっすぐにならないということ。でも、そのねじれが、建築に必要な強さと粘りを産むそうです。

若い唐松は特に暴れがひどいですが、木のねじれも年を重ねるにつれて落ち着いていき、樹齢80年以上ともなるとねじれが少なくなっています。近年、大きく育った木が山に増えてきたことで、市場でも太くて大きな唐松をたくさん見かけるようになったそうです。

一般的に唐松は、その扱いにくい性質から集成材や合板に使われることが多いですが、小林木材では一切そういったものは作りません。

小林さん:
「考えてみるとね、このくらいの梁せい(建物の梁材の高さ)なんて、わざわざ集成材にしなくても、一般住宅なら普通の唐松の丸太から無垢で取れるんですよね。そりゃ、大きな建物の梁を作るには必要かもしれないけど。でも、大きな建物だって工夫して、昔の大工さんの技術を使えば、無垢材でできなくはないんですよ!だから、普通の住宅においては、そんな必要性はないわけです。接着剤やホルムアルデヒドの問題もあるし。それに、集成材が一番怖いのはいつかは剥がれるってことだと思うんです。」

修正材は、強度の弱い材や接着剤が不十分だったり、適切な規格のものじゃなかったりすると、隙間ができてバラバラになってしまう危険があるそうです。隙間ができ、そこから結露が起これば、お家は大変です。全部が全部、そうなるわけじゃないかもしれませんが、人が作ってるものだから100%はわからない。永久保証ではないんです。

粘りがあって、硬くて強い唐松の集成材は、市場にたくさん出回っています。でも、集成材を作るには木を細かく切り出し、貼り合わせて、何段階にも削って材を整えていくので、実はものすごいエネルギーが必要で、同時に多くの二酸化炭素も排出しています。そうまでして、集成材は本当に必要なのか?
山で大きく育った唐松を無垢材に加工し、材木を作ってお家に使ってもらった方が、人にも環境にも優しい建物ができると小林さんは言います。

小林さん:
「お金を出せばなんでもいいんだっていう考え方が、今は万永してる気がする。世の中、「お客様は神様」になりすぎてる。そういう人は、「無垢材じゃない方が安心できる」と言うし、説明しても「なんで君たちはそんないばってるんだ」ってね。「自分たちの考え強すぎない?売り手のくせに」って言われちゃうわけ。でも、そういう事じゃなくて、売り手がしっかりした考えを持ってやっているのが、やっぱり俺は大事なんじゃないかって思んだよ。じゃあ、どういう人に使ってもらいたいんだっていうと、「木ってそういうものなんだね」って人に使っていただきたい。割れた曲がったはあるかもしれない。メーカーとして、クレームが少ない商品作るのは当たり前なんだけど、そこに対しても一生懸命やるんだけど、それでもどうしてもダメな場合もある。致命的なことは別として、木に対してそういう大らかな気持ちというか、人間の余裕?ってのがあるといいよね。」

2 木の乾燥は、料理のように手間がかかるもの

小林木材が、業界の異端児だと呼ばれる理由は、木の乾燥方法にあります。一般的には、高温乾燥といって、温度120度で24時間、その後90度に下げて2週間乾燥させる方法が主流です。一方、小林木材が行なっている乾燥方法は、中温乾燥と天然乾燥のハイブリットな乾燥方法。

違いはなんなのか?
高温乾燥の良いところは、木の表面が硬くなり、見た目がきれいで割れも少ないこと。また、乾燥時間を短縮することで、生産性も上がります。ただ、デメリットもあります。生の木を高温高スピードで乾燥させるので、木の組織が細胞破壊を起こし、内部割れが発生します。どんな状態かというと、木にボソボソ感がでちゃうのです。料理で野菜を電子レンジを使って温めるのに似ていて、電磁波ですぐ温まるけど野菜の内部は細胞破壊されて、野菜そのものじゃなくなってるような感じ。高温乾燥は便利だけど、木にとってはきっと苦しい乾燥方法です。

一方、中温乾燥+天然乾燥はというと・・・
小林さん:
「俺たちは、温度を80度以上に上げないよう頑張ってる。それでも割れないものを作ろうと試行錯誤してるんだけど、なかなか難しくて 笑。県の人にも、なんで世の中と逆行するようなやり方するの?って。でもこの方法の方が、木の色艶もいいし、それに大工さんの評判がいいんですよ。大工さんがノミを使う時に、表面が硬くなりすぎてないからサクって刃が入るって。今はプレカットが主流になってるから大工でもわからない人もいるけど、手刻みをやってる人はすぐわかっちゃう。」

構造材としても、中温乾燥はとても相性が良いそう。高温乾燥の場合、材は固いが繊維が破壊されているのでが粘りがないから、強い金物と一緒に併用して建物を作らないといけない。でも、中温乾燥した木には粘りがあり伸び縮みすることで、強い地震が起きた時でも、建物が踏ん張ってくれるそうです。

木はそれぞれ個性を持っていて、人と同じで育ちや環境によって違います。樹種ごとにも性質が違うし、同じ樹脂であっても一本一本少しずつ違いがあります。だから、木で作ったものに同じ製品なんて一つもないんです。同じように乾燥させても、すごくねじれる木もあれば、ねじれない木もある。割れてしまう木もあれば、割れが少ない木もある。こればっかりは、人と同じでわからないんだそうです。

中温乾燥のマニュアルは小林さんオリジナル。温度、湿度、時間などいろんな組み合わせを試して、導き出したそうですが、今でもその試行錯誤は続いています。
「今もね、いろいろ実験をやっている。60度でやってみたり、85度でやってみたり。この前、65度でやってみたらすごく割れた 笑。まぁ、おもしがってやってますけどね 笑。それがいいんですよ、楽しくて。」

乾燥工程で使うボイラーの燃料も、化石燃料は一切使っていません。燃料は、工場から出る木グズや皮。昔は灯油を使っていたそうですが、今まで捨てていたものが燃料になるのでコストもかからない上、工場内もきれいになるので、良いことづくしです。

出荷する直前に木材をプレイナー(滑らかに削る機会)かけるのですが、その時に一本一本含水率とヤング係数と強度を測っています。そうすることで、製品の品質を守ることができます。中には乾燥が足りず、JIS規格である含水率20%以下に至らないものもあるそうで、最後の砦はとても重要。いつかどの材も目標をクリアできるように、日々試行錯誤は続きます。

3 木も人も動物も仲良く共存できる山に。

小林木材では、他にも新しい挑戦に取り組んでいます。
長野県小谷村の『くらして』が扱ってる雪も重みで曲がってしまった杉を使い、フローリングと作ったり、小さな小屋用の材料を作ったり。曲がってしまった木は、合板にしたり、捨てられてしまうことも多いのですが、豪雪地域の大変な環境の中で育った木も誰かが喜んで使ってくれるものにしてあげたいと、新たな製品作りに力を注いでいます。

また、長野県産唐松のブランド促進にも一役買われています。長野県産木材のブランドと言えば木曽檜がありますが、檜でも人口林であれば唐松とそんなに差がない価格になってきているそうで、その普及のためにも活動されています。これから唐松の市場が増えていくことで、長野の山にも林業の世界にも新しい道が開けるような木がします。

小林さんは、とても明るく、とても謙虚な方で、難しいことを楽しんで挑戦されています。小林木材も、生産性や経済主体のやり方とは違う、良いものづくりを模索し続けています。会社の歴史の中で、扱いやすい外国材の米松を使っていたこともありました。また、集成材を作ったり、高温乾燥をやろうとしたこともあったとか。化石燃料も使っていました。今、その全てから脱却したことで、気持ちの良いものづくりができているそうです。

そんな小林さんに、これから先の未来について聞いてみました。

「こっちの山は、鹿とかクマとか動物がいっぱい出るでしょ?じゃあ山の上の方はどんぐり植えて、下の方は針葉樹植えたらどうかなって 笑。そうすれば、人里に動物も降りてこなくなるんじゃないかって 笑。わざわざ山の高い所に木を植えるのも大変だし、山に動物が住める林業の仕方ってないのかなって、いつも思ってる。もっと多様性を持たせて、本当は唐松切ったところに唐松を植えてもらいたいんだけど、山の下の方でもいいよね。そんな山が理想だね。」

木を思い、見えてくる未来の山の姿。生きるもの全てが仲良く共存できる環境をつくっていくためにも、身近な木のことをもっと知ってもらえたらと思います。

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