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長野県北安曇郡小谷村 大網集落。
冬には人の背も超える雪が降り積もる特別豪雪地帯であり、四方を山に囲まれた、昔のままの自然環境が多く残っている山間の村。住民70人ほどのうち、45人が70歳以上のお年寄りが占める限界集落ですが、残りの住民は働き盛りの若者たち。その多くは、ここ大網の魅力に引き寄せられた県外からの移住者やUターン者たちです。

大綱は、人が無くしちゃいけない大切なものを教えてくれる場所。それは、はっきり言葉にできるほど簡単なものでもなく、この大自然とここで暮らすおじいちゃんおばあちゃん、この土地での日々の暮らしに触れることで、じんわりと心をに響いてくるもの。

『くらして』は、そんな大網で暮らす人たちのあたたかな人柄に魅了され、移り住んだ2家族のグループです。この土地での「暮らし」によって培われていった知恵や文化、山仕事や農業をここに住み、伝統を守り、次の世代へ伝えていく活動をしています。
そんな『くらして』の活動を通し、生きていくのに大切なことを見つけていきたいと思います。

第一回目は、これまでの『くらして』をご紹介します!

暮らしと仕事と「つちのいえ」

『くらして』は、北村家の北村健一さん(ナベさん)、綾香さんと前田家の前田浩一さん(まえっち)、聡子さん(さっこさん)の4人のチーム名。会社でもなく、NPOでもない。同じ思いを持った2家族の共同体です。

大網のおじいちゃんおばあちゃんたちに「暮らし」に必要な手仕事を学びながら、受け継ぎ、次の世代に伝えていくことがチームの目的であり、日々の暮らしに必要な田植えや畑、村の行事などはみんなで行っています。また、ナベさんは山仕事と猟と炭焼き、綾香さんは栃餅づくり、まえっちは炭焼きと大網の案内人、さっこさんは活動発信と、それぞれ得意分野活かした仕事もしています。

さっこさん:
ここに訪れるきっかけを作るのが私の仕事。インターネットやSNSで発信もするけれど、基本的には自分の足で直感的に動くようにしています。気になる人やところへ実際に会いにいって、繋がりを作っていく。なんとなくフォーメーションとしては、わたしが先頭に立っていろんな場所の扉を開けて、ナベちゃんとあやかがそこを耕して、最後にまえっちがキレイに整えていく(笑)。そんな感じで活動しています。大網で暮らすおじいちゃんおばあちゃんたちには、とっても偉大なサポーターとして私たちを支えてもらっています。

栃餅づくり、田植えや山仕事、猟など、今ここでしか体験できないイベントを通して、大網の暮らしに触れてもらう。もちろん、『くらして』のメンバー以外に地元の人たちの人柄に触れて、繋がってもらいたい。4人が話す言葉の中には、度々「地元のおじいちゃんおばあちゃん」が出てきます。

綾香さん:
ここに来て一番大切にしたいなぁと思ったのは、大網の人のあたたかさと、人と人との繋がりです。ここで暮らすようになってから、そんな繋がりにずっと助けられていたので、今度はその繋がりを子供達にも伝えて残していきたいと思っています。

また『くらして』は、栃餅工場を併設した簡易な宿泊施設「大網農山村体験交流施設つちのいえ」を運営しています。ここを拠点とした様々なイベントも開催しています。みんなで山へ冒険に行ったあと、伝統食の笹寿司を作って食事したり、地元のおじいちゃんに森や動物の話を聞いたり、みんなで「暮らし」について語り合う、そんなゆったりした時間を過ごすスペースです。「つちのいえ」は、大網の人とここを訪れた人とを繋ぐ、大事な拠点となっています。

『くらして』のはじまりと大網へのそれぞれの思い

大網で別々に暮らしていた4人それぞれに、この場所を大切にしていきたい思いが芽生え、繋がり、これからここでどんな暮らしを送っていきたいか、どんな風に生きていきたいかを「つちのいえ」で集まって話し合ったのが、『くらして』の始まりでした。

『くらして』が、最初に大網へ移住するきっかけとなったのが、(公財)日本アウトワード・バウンド協会(OBS)の長野校。アウトワード・バウンド協会(OBS)はイギリスで開設され、今では250の拠点を持つ非営利冒険教育機関です。大自然の中で行う冒険的体験から、自己の可能性を引き出し、高めていくためのプログラムを実施している学校です。

綾香さんは、大網に来てOBSで働いていた5年間、地元のおじいちゃんおばあちゃんに娘のようにかわいがってもらったそう。それまで住んでいた地元を離れ、右の左もわからないような環境の中で、ご飯を用意してもらったり、野菜をもらったりとたくさん助けてもらいました。その後、大網を離れた時期に「田んぼ仕事が大変だから、ちょっと手伝ってくれないか」など大網の人たちから少しずつ頼られるようになり、その頃から大網で自分にも何かできることあるのかもしれないと思い始めたそうです。そして、ナベさんと、生きる場所はどこがいいかなど話し合いながら家を探し、小谷村にある今の家に辿り着いたことが大網に戻るきっかけになりました。

ナベさん:
OBSを卒業してからいろんな場所を旅して、その後、林業の会社に10年くらい勤めていた。山の仕事をしていたから、やっぱり生活の場所はこういうところがいいなぁって思ってた。今の自分にとって、OBSで勉強したことは人生の中ですごく大きかったので、その拠点の近くで住みたい部分もあったのかもしれない。そんな事を考えた時に、ちょうどタイミングよく今の家が借りられるようになって。「よし、じゃあ小谷村に戻ろう!」って、俺も綾香も思ったんだ。

まえっちは、OBSに勤め始めた2000年からずっと大網で暮らしています。OBSの仕事が好きで、いい仲間と一緒に過ごす時間はかけがいのないものだったそう。

まえっち:でも、ずっとここで暮らしてると、だんだんここの暮らしが居心地よくなって来て・・・地元の人や大網そのものに興味を持ち出して。でもOBSに勤めてると、例えばお祭りとか、村普請とか、運動会っていうのにほとんど出れないかった。もっとお祭り見たいなぁとか、村の作業にも関わりたいなぁとか思うことが増えてきてた。

ここの暮らしや人の居心地の良さに触れて、いつかいなくなってしまうかもしれない「OBSの人」ではなく、「前田さん」として村そのものに関わっていきたいという思いが強くなってきたころ、北村家が大網に戻ってきました。

まえっち:その頃は、4人でもう毎晩のように集まっては一緒に晩御飯を食べて、これからどうやってここで暮らしていきたいか、生きていきたいか、とか話してた。何を大切にしているかとか、していきたいかとか。とりあえず頭に思い浮かんだものを出していくっていう、そういうブレストみたいな作業もやったりしてた。

「暮らし」のこと、山や自然の環境、おじいちゃんやおばあちゃん、山仕事や栃餅、食や農業、これからの福祉や子育てなど、大網のある無くしたくないものを受け継ぎ、村と繋がって、ずっと変わらずこの場所を守っていこう。ここの暮らしてになろう。大網で暮らした時間が教えてくれたことは、生きていく上でとても大切なものであることを再確認した時間だったのではと思います。

こうして結成された『くらして』の名前には、いろんな思いが込められています。

さっこ:くらしてには、働き手とか担い手の手と同じ、暮らしをする人、暮らし手。っていう意味も含めて、「こういう場所に暮らして」とか、誰かに「こういう場所で暮らして!」ってこうお願いするような、そんな風にも聞こえるかなって。

3、これからの『くらして』

活動5年目を迎え、これからどんなことをしていきたいか、伺ってみました。

綾香さん:この大網の暮らしそのものが人を元気にする力があると思うので、これからもいろんな人に経験しに来て欲しい。自分たちだけでなく、人との綱がりをすごく大切にしている人たちと一緒に何かをやる喜びを共有して、楽しんで大網の暮らしをもっと伝えていけたらいいなって。あとは、子育て真っ最中なので、しばらく子育ても楽しみたいなぁ。子供はすぐ育っちゃうからね。あっという間に。

さっこさん:始めたころは自分たちがやっていることは、日本を良くしていくことに繋がっているんだって、とても大きく捉えていたりしてた気がする。でも、自分たちがやれることをちゃんとやっていけば、それが自然に広がっていくことで、元気に暮らしていける人が増えていくんじゃないかっていう風に、今は感じてる。こういう場所で生きてくことが今の社会で可能になっていくような日本になっていけば、子供も大人も、みんな元気と生きていける社会になっていくんじゃないかなぁ。思いを共有できる仲間をもっと見つけたいし、増えてくといいなって思う。

大網のおじいちゃんおばあちゃんから習った言葉に「夏かんじき冬まぐわ」という言葉があります。備える季節に準備して、使う季節を迎えるという意味です。春になれば薪を作り、夏にはかんじきを作り、冬には田畑の準備のために馬鍬の手入れをする。季節が巡る度に少しずつ道具を整えながら、本番を迎える。
だから、畑であっても田んぼであっても、夏も冬もどんな季節でも、暮らしの中には休んでる時間はありません。次の暮らしに備えてること、それも大切な暮らしの知恵から生まれた手仕事です。

暮らしと寄り添い、季節を感じ、山や川と共に生きる暮らし、そんな『くらして』のみなさんの活動を、季節が巡るの度に、これからも追い続けたいと思います。

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