長野県東御市の海野宿でガラス工房橙を営んでいる寺西さんご夫妻。
地元の特産品であるくるみの殻の灰を混ぜて作ったくるみガラスが人気です。
窯から出てくるガラスのお皿やコップは繊細で、ついつい飾ってしまいがちですが、毎日の生活でどんどん使ってもらいたいとおっしゃる作り手さんご夫婦。
使ってもらうための工夫もされているようでした。
色とりどりのガラスの作品が並ぶお店と、2階にある落ち着いたカフェは奥様の担当です。
お手伝いさんもお願いしているのですが、基本的にカフェで出すケーキや飲み物、夏に限定で出しているかき氷は私が担当しています。
と、言っても自分で作って食べてみたもので美味しいなと思ったものをみなさんにお出ししているだけなのですよ。長野県の特にこの地域は、くるみやあんずがよく取れるんです。横浜にいた時はくるみと言ったら外国産のものしか見たことがなかったけれど、ここでは殻付きの国産くるみが手に入るんです。
それじゃあクルミを入れてケーキを焼いてみようかな。一緒にりんごも入れてみたらどうかな?
そうして焼き上げたケーキを試食してみるととても美味しかったんですよ。
じゃあお店に並べてみよう。というような感じで出すようになりました。
飲み物もかき氷も同じような感じです。
自家製の梅ジュースをかけてみたらすごくおいしくって。
お店で出し始めたんです。
ある日梅ジュースが少なくなってきてしまって。じゃああんずジャムを乗せてみたらどうかな?と思い食べてみたらすごくおいしかった。じゃあこれも出しましょう。
こんな具合で、自分たちがいつも食べているものをお店に来た人にも味わってもらいたくて出しているんです。
せっかくおいしい地元の特産品があるんだから、もっと知ってもらいたいと思って。
そうおっしゃる奥様の真紀子さん。
最初はお店のコップやお皿を実際に使ってもらって、どんな感じか知ってもらうために始めたというカフェ。
お店に並んでいるだけだと、水やお茶が入ったときはどんな感じかわからないでしょ。
だからお水もこうして入れて出しています。
すると、このピッチャーがあったらこんな感じで使えるなとか、これよりもう少し大きいものが欲しいなとか買うときの参考になる。
照明も同じです。
掛けてあるだけだとわかりづらいけれど、実際にカフェで使っているところを見て、これはうちのあそこに似合いそうだなとかイメージしてもらう。それが大事だと思ったんです。
ガラスの作品は置物や飾り物も多いですが、うちは生活の中に取り入れられてもらえるものをと思って作っています。
だから実際に使っているところを見てもらいたいんです。
店内にはお店の名前にもなっている橙色のグラスや照明の傘が並んでいました。
橙色が好きだから橙という訳ではないそう。
工房に行くとわかるけれど、炉の中のガラスを取り出す口の部分が丸いんです。
炉の中に火が入っているとそこが橙色に輝いて見える。その様子がすごく好きなんです。
また炉の中から取り出してすぐのガラスはきれいな橙色をしているのです。
そこからお店の名前を橙、そしてお店のカラーを橙色にしました。
また橙は三種の神器のうちの一つ、玉を表しているということもある縁起のよいもの。
橙を代々と読み変え、代々続く、ずっと繁栄するという意味もありあり橙にしました。
長野県の冬は寒く、他の県に比べ長いように感じます。
そんな長野の冬に暖かみのある暖色系の色が似あうのではないかというのもあったそうです。
夏には涼しげな音を奏でる風鈴も入り口の外に並んでいました。
夏も冬もそれぞれの楽しみ方ができるガラスは一年を通して家族団らんの間を彩ってくれます。
古い町並み
くるみやあんずの産地
寒く長い冬
その場所に似合ったものを作るということは、他には真似できない一つを作るということ。
東御市の海野宿で作ったからこそのこのグラスが、いい旅の思い出になったり、家族の思い出になる。
そうしたものを作り手さんの想いと共にずっとずっと大切にしていきたいと改めて思いました。