東京から特急電車に乗ると、1時間ほどで田んぼの風景が広がります。 私もよく乗るこの特急電車。 トンネルが終わると富士山が見えたり、田んぼや畑が見えたり。 季節によって色を変える車窓の景色が楽しめます。
乗り継ぎ、ずっと進むと日本の田園風景が広がり、昔よく行ったおばあちゃんの家を思い出させるような 小さな町にたどり着きました。
ここ、長野県北安曇郡池田町は目の前に北アルプスが広がる田園地帯です。 おばあちゃんの家を思い出させるというのはまんざらでもなく、ここはカミツレの宿八寿恵荘の代表、北條裕子さんのおばあちゃんの家があった場所です。
ここは私のおばあちゃんの家があった場所。父の田舎にあたります。 父方の祖父は父が幼いころに亡くなり、女手一つで父とその兄弟を育てました。 それもあってか、父は祖母を、そしてこの地をこよなく愛した人でした。 父は東京で印刷会社を経営していました。 忙しい日々も頻繁に東京からこの池田町に戻り、祖母の作った野菜を車に乗せ、印刷会社の社員の皆さんに配るなどしていたそうです。
優しいまなざしでお話くださったのは、この八寿恵荘を含めたカミツレ研究所の代表を務める北條裕子さんです。 一人っ子だった裕子さん。 今はお父様が東京で立ち上げた株式会社相互という印刷会社さんと株式会社カミツレ研究所の二つの会社を運営しています。
ここ八寿恵荘は八寿恵ばあちゃんの家があった場所。 そこに父が印刷会社の保養所として建てたのがこの八寿恵荘の元になっている建物です。 今回はその建物を全面改修してビオホテルとしての認証を受けました。 ここには昔、宴会場があったり、小さなお風呂があったり。 当時の間取りは思い出せますが、面影はほとんど見当たらなくなりました。 それでもこの自然素材で包まれた空間がとても気持ちいいのです。
東京で忙しくしている北條さん。 こちらには新幹線と特急を乗り継いで、週に1度ほど訪れるといいます。
東京では仕事があるから、忙しくさせていただいています。 でもこちらにくると、本当にホッとします。 私の一番のお気に入りはこのベンチの角です。 カミツレが満開になる春の季節は、この傾斜地が真っ白になって本当に絶景ですよ。 カミツレの花の匂いも漂います。
このベンチは外のかまどを作るときに、どうしても切らなくちゃならない木があって。 泣く泣く伐採することにしたのですが、それならと思い、ベンチにしました。 ずっと見守ってきてくれた木。これからはベンチとしてまた見守ってもらいたいと思ったんです。
お話を伺ったラウンジは、床も壁も天井も、もちろん建具もすべて自然素材をそのまま使用した内装でした。もちろんみなさんが宿泊されるお部屋も、自然素材をふんだんに使った内装でした。
私の周りにもたくさんアトピーの方がいます。 こちらでもアトピーの方に向けたツアーなども開催しています。 知人の職場が新建材で内装工事をした途端に、彼女の体調が悪くなってしまったことがありました。 初めの月には3回もアナフィラキシーショックになってしまったそうで。 この八寿恵荘を計画するときにも、絶対にそんな建物にしてはいけないと思い自然素材を使った建物にしました。
こちらの八寿恵荘はビオホテルジャパンが初めて認証したビオホテルです。 ドイツを中心に欧州では人気のビオホテルですが、日本にはありませんでした。 食材や調味料はもちろんのこと、石鹸やシャンプー等のアメニティ、タオルリネン類、そして環境への負荷のかからない取り組みという厳しい規定をクリアしたホテルにのみ認証されるビオホテル。 八寿恵荘は、皆さんも馴染みのある華密恋(KAMITSUREN)の会社です。 アメニティはもちろん華密恋のものをそろえています。
布団やリネン、タオル類はオーガニックコットンでそろえました。 食材や調味料も規定をクリアしたものを、季節に応じたメニューで提供しています。 枕カバーはお願いしてカミツレで染めでいただきました。 草木染めというのは、ほとんどが薄くでてしまうのですが、出来上がってびっくり。 白い花からは想像がつかないほどきれいな黄色に染まりました。
そして環境への負荷のかからない取り組みという部分ではドイツ製のウッドチップボイラーを使用しています。 チップは近くの大北森林組合から購入しています。 県内の森の間伐材や、木の枝などの部材を有効利用することは燃料の消費の多い宿に取り入れることによって環境負荷を少なくすることに多いに役立っています。 チップが大きすぎて詰まってしまい、故障してしまったりと上手に作動するまでには大変なこともあったようですが、東京よりずっと冬の季節が長いここ池田町にはなくてはならない必需品です。 このウッドチップのボイラーは、館内の床暖房やお風呂の熱源として使用しています。
この八寿恵荘から見渡せる景色のほとんどを北條さんが所有しています。 4万坪の敷地に、八寿恵荘、カミツレ研究室、カミツレの畑、そして自社栽培農園があります。 そして楽しそうなツリーハウス、植林した森、2年前からはじめた田んぼもありました。
北條はたまにとんでもないことを言い出すのですが、ちょうどあそこに見えるのがツリーハウスです。 4万坪の敷地を案内してくれたのは、八寿恵荘の支配人の松澤さんです。
私たちも実際にお邪魔して、デッキからの眺めを楽しみました。
傾斜の中腹にある木にくっついて建っているので、数段の階段を上っただけなのに、上からの景色は 足がすくむ高さでした。 木登りするとこんな気分なのかな? そんな気持ちを味わえました。
ラウンジから見える森の中に、周りの木々より少し背の低い木が何本かありました。
これは以前植林をした木です。 池田町の森の里親制度に登録しており、毎年木の伐採もしています。 その時には東京からも社員がきます。 自社農園の中には田んぼもあります。 2年ほど前から田んぼをはじめ、乳がんサバイバーの方にツアーとして来ていただいた時にお手伝いいただいたりもしています。
現代はストレス社会と言われています。 こちらの宿は保養施設として企業提携している企業もあるそうです。 多目的で使える場所もあり、プロジェクターを使用した社内会議等にも対応できる作りとなっていました。
こうした宿を作ることによって、誰かの心が満たされるといいと思っています。 たとえば、アトピーのお子さんを持つご家族向けにツアーを組んでいます。 外食だとこれもあれも食べちゃいけないと言わないといけないけれど、ここだとなんでも安心して食べさせられる。 子供も安心して心が満たされますが、親も気を使った食事の用意から解放され、ここでの滞在を楽しめると思っています。 弊社スタッフも例外ではありません。 他の宿だと、洗濯や皿洗い時に使用する洗剤の影響で手荒れを起こすこともしばしば。 でもこちらでは肌にも、地球にも優しいものしか使用していないので、手が荒れませんとの声も。
いつでも、いつまでも、みんなが癒される素敵な空間でありたい。 そんな空間には、先代のお父様と北條さんお二人の八寿恵おばあちゃんとの思い出とお二人のやさしさがたくさん詰まっていました。 どこまでも続くカミツレの花畑は、疲れた人を包み込むように癒してくれます。
次回はカミツレ研究所編です。