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人間は自然の恵みをいただきながら生活しています。
山で時間を重ねてろ過された水。
森で木々が浄化したきれいな空気。
野菜を育てる土。
人が生み出したものだけでは決して生きていくことができません。

しかしどれだけの人がその自然の恵みを直接感じて学んでいるのでしょうか。

 木は勝手に山にはなりません。
人間が一度手を加えた森は、これから先もずっとずっと手を加え続けなくてはならないのです。
戦後まもなく人は山に木を植えました。
丁寧に手入れされた山、放っておかれた山、それぞれあります。
どちらの山もちょうど70年ほどになります。

今回、宮城県栗原市にて夏に全て伐採された山に再度植林をするというので植林をお手伝いしてきました。

 今回参加者は総勢60名程度。

こちらの山の木を伐採した地元の製材所、株式会社くりこまくんえんの社員の方々と、その木を使って家を建てている工務店、株式会社アトリエデフの社員の方々を中心に植林をしました。

この日植えるために用意された苗は約3000本です。

今回用意してくださった苗は「杉」の苗です。

参加者の方から、「杉花粉の被害のことをたくさん聞きますが、それでも杉を植えるのは何故ですか?」という質問がありました。
桜やカエデなどの広葉樹を植林するのは難しいようですが、杉と同じ針葉樹のヒノキを植えることはできそうです。
しかし、ヒノキは植えた後の手入れが手間になってしまうとのことでした。
杉は植えるとまっすぐ伸び、下の方の枝は勝手に落ちていくそうです。
比べてヒノキは下の枝は勝手に落ちないので枝打ちといって枝を切り落とす作業が必要とのことでした。

木の種類が違い、成長の過程が違うだけで手入れやその手間も違ってくるのだと初めて知りました。

最初に植林の方法を説明してくれました。
杉の苗木は種を蒔いてから既に2年成長したものを使用しました。
苗木もこちらの近くで育ったものを使うということでした。
スコップの先端がとがったものを使い穴をあけます。
その穴に杉の苗木の根っこ部分を押し込み上から踏みます。
苗木を引っ張っても抜けないくらい周りの土と圧着したら終了です。
きちんと周りの土と根が圧着していないと、根が付かず枯れてしまうとのことでした。
ひざ下ほどしかない大きさの苗木の根の周りを踏むのは抵抗がありました。
ふわっと植えておくイメージがあったので、ぎゅっとするということにびっくりしました。

数日前の台風で地面に水分があったので、今回は植えるだけで終了です。
乾燥するようであれば、周りに枯葉などをかぶせてあげるといいとのことでした。

 急な斜面も約2メートル間隔で植林していきます。
山に植林するので当然斜面での作業となるのですが、意外と難しい作業でした。
しっかりと直立できないほどの斜面に、やっとのことで穴をあけ苗木を植えました。

みなさん黙々と作業を続け、結果半日で約2700本の苗木を無事に植林しました。

さて、この山は何年後に材木として使用できるほどのものになるのでしょうか。

 正解は60年から80年です。
2017年に植林したこの山。
早くても2077年。
今年生まれた子供が定年退職するくらいの時期にやっと伐採できるのです。
木の成長も人間の寿命と同じくらいの時間が必要なのです。

その時に今回植林した2700本が伐採できると考えがちですが、そんなことはありません。
実はこれから木々の成長に合わせて間伐、つまり畑でいうと間引きのような作業を繰り返していき最終的に伐採するのは今回植林した2700本の10分の1の270本です。
今回植林した苗木もすべてが成長していく訳ではありません。
上手く根付かなかったり、雪や台風にやられてしまったり、虫に食われたり。

更に2メートルおきに植林した杉は少し大きくなるにつれて枝葉を広げ、その枝葉がぶつかり合います。すると成長が遅くなってしまうので間伐を繰り返し、大きく成長した木が60年後に皆伐といい全ての木を伐採する時に切られ、製材され家の構造材や家具などに使用されます。

では成長の途中で間伐材となってしまった木はどのようにして使われるのでしょうか?

 ある程度の太さに成長したものであれば建材として使用されます。
細く建材として使用できないものは他のものに加工されます。
紙としても使われます。
よくパンフレットなどに記載のある間伐材使用というのはこの成長途中の木を使用しています。
成長途中の木であったとしても材木であることは変わりありません。
適材適所で使用していく取り組みが進んでいます。

 

また小さく粉砕したものを燃料として使うボイラーやストーブも製品としてあります。
公共施設等で使用されていることが多いですが、以前取材させていただいたBIO HOTELの八寿恵荘にもボイラーがありました。
どのようなものでも無駄にせずに使用したいものです。

一斉に山に木を植えたちょうど70年前は、みんな山の近くに住み生活の合間に山に行き草を刈ったり枝葉を払ったりしていました。時期がくると間伐をし、木がきちんと大きく成長するように見守っていたのです。
山の木を切るときは家を新築するときです。
育ててきた木を使って家を新築し、その後自分の子供、孫のために植林をしていました。
そうしてまた手入れをし次の世代へと山を繋ぎます。
今は家を建てる時に使う木は外国から海を渡って輸入されたものが多くなりました。
既に組み立てられた箱状のものを組み上げるだけでできる家もでてきました。
箱状の家は太く丈夫な柱や梁は必要ありません。
一気に木の需要が減ってしまったのです。

また都市部へ出ていく人が増え日常の中で自分の山の手入れをすることが難しくなってしまったのも、日本の山が荒れてしまった原因の一つです。
本来であれば皆伐の後に植林をし次の60年手入れしていかないといけないのですが、山の知識のない息子や孫に山を残しても心配なだけだという方も多く植林せず、その結果荒れ地になってしまうこともあります。
植林するのにも苗木の代金や今後手入れをする手間、そして最終的に山から切り出すのにもお金がかかります。
「山が儲かる」という時代はとっくの昔に終わってしまってということでした。

 そしてその悪循環の結果、土砂災害などの自然災害も起こりやすくなってしまいます。
一気に雨が降ると山が水をためこむことが出来ずに川が増水、氾濫してしまうこともあります。

 少しでも多くの人に今の山の状況を知ってもらいたい。
今回植林を運営した株式会社くりこまくんえんの菅原社長は言います。

菅原社長
ここ栗原市も見渡す限り山に囲まれた地域です。
しかしきちんと手入れがされていなかったり、間違った方法で植林された山があります。
若い人たちは町を出て年寄ばかりになってしまった。
どこの町でもある話ですが、自分たちが少しでも手を入れることで生きる山がでてくればと思います。

周りの山の木を皆伐してほしいという話をよくいただきます。
その後植林する山はとても少ないです。
山の持ち主さんの意向なので仕方のないことなのですが、このまま皆伐を続けると近い将来山がなくなってしまいます。

10年ほど前に、同じく植林した山は今では大きく成長し、枝葉が覆い茂り暗くなってしまっている場所さえありました。
来年は少し除伐、間伐をしてもよさそうだなと思っています。
小さな苗木が周りの雑草に負けないように草刈りをするのは10年目くらいまで。
これくらいの大きさになれば、一安心です。
これからは除伐、間伐を10年に1度程度繰り返し、60年目を迎えます。

 森は子供と同じように手がかかるのは初めのうちだけ。
あとは自分たちで成長していきます。
実際10年目の山も、去年よりも木が一回り大きくなり、雑草に負けてしまっている感じが少なくなりました。

木を切るということも職人技。
チェーンソーを持ったことがある人はとても少ないのではないかと思います。
こうした技を繋ぐことも、山を繋ぐこともこれからの時代に必要なこととなってくるでしょう。

植えるだけではなく、手入れをして長い年月をかけて成長する森。
次の世代に繋げていくためにも森の活動に多くの人が関わってくれるようにしていきたいと思いました。

 

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