ぶとうやももの畑の間にある集落。
その一角にあるおうちから木の匂いがしてきました。
木を切った切り口からは、ぷーんとヒノキのいい匂いが漂います。
室内は壁や床が壊されており、改修工事の真っただ中のようでした。
大工一筋40年以上。今は息子さんと二人で大工さんをやっています。
昔は大学なんて行く人いなかったからね。18歳から大工をやっているよ。
訛りの入った言葉は、なんだか懐かしくそして力強いものでした。
元々出身は小諸なの。
親父は軽井沢で八百屋さんをやってたんだわ。でも大工になるって決めて、親方について。
親方が上田にいたから、それからずっと上田で仕事してるんだよ。
そうお話してくれたのは真田丸で有名な長野県上田市で、墨付けから刻み、家が完成するまでの木工事を全てをこなす大工の金井棟梁です。
月曜から土曜までの日が暮れるまでは仕事。
夜は夜間学校に通っていたよ。
日曜日は大工の学校。
休みはなし。それでも好きでね。夢中でやっていたよ。
最初大工を始めた時はどんな仕事でもこだわりなく受けてきたという金井さん。
某大手ハウスメーカーの家を20年くらいやっていたそうです。
特にバブル期で忙しくってね。
こだわりとかそんなの考えている暇もなかった。
墨付けとか、柱、梁の仕口(柱や梁に組んでつなげる部分)を作るなんて面倒でね。
考えたこともやったこともなかったよ。
大工学校で習ってるから、知ってはいるし見たこともあるけど、実際にはなかなかね。
そんな時にとあるご縁で出会った工務店から、職人が手仕事で作る家を頼まれた。
やったこともないので、最初は大変だったがだんだん楽しくなってきたそう。
プレハブのメーカーは誰が作っても全部一緒。
最終的には同じものができるようになっているんだよ。
でも職人が手仕事で作る家は一つ一つが違う。
もちろん設計図に寄っても違うんだけど、大工に寄っても違う。
大工ってみんなこだわりが強いと思うんだよね。
だからみんな一人でやってるんじゃないかな。
そうして一つ一つの家にこだわりを持って作り上げてきた金井さん。
この仕事の好きなところはと聞いてみたところ、すごく悩んでからこう答えました。
段々出来上がってくるのを見るのは好きだね。
今日はここが仕上がったな。明日はあそこをやろう!とかね。
会社員とは違うから、仕事と生活の境目があまりないよ。
家で仕事の話もするし、明日のことも考える。
でもそれが嫌ではなくて、楽しみだよ。
形のなかったものが、出来てくるのが楽しいね。
みんながみんな出来ることじゃない。大工しかできないことだからそれも好きなうちの一つかな。
モノづくりの楽しさって、モノづくりをしている人じゃないとわからないところがある。
でもいつの時代も子供たちの将来の夢に大工があったと思うんだよね。
それを見ると、ちゃんとモノづくりの楽しさを伝えられてるなって思うね。
家を造っていると、お施主さんの子供たちが足しげく現場に通うことも多いそう。
学校から家に帰る前に現場に寄って、楽しそうに木に破片を集めたり。
目の前で自分の家が出来てくるのを見ていると、大工さんの凄さがよくわかります。
昨今ではプレハブの家はものの数日で形ができます。
しかしこうして大工さんが一つ一つ手でつくり、完成していく様子を近くで見ると、人の手仕事の素晴らしさを改めて感じます。
土台とか梁とか、石膏ボードとか、足跡ついていたりする現場もあるんだよね。
でも俺はそういうの、すごい嫌なんだよ。
人が暮らすところでしょ。
これから子供が大きくなっていくところでしょ。
そういうところにまで気を使って仕事をしていきたいね。
それが職人ってもんでしょ。
陽に焼けた顔で笑いながら話してくれた金井棟梁。
最近は人の手で作る家が少なくなってきましたが、こうして想いを込めて造った家が2代3代と長く人に住んでもらい、思い出と共に更にいい家になってほしいとせつに願った一日でした。